2010/12/20

オーギー・レンのクリスマスストーリー

雪と寒さを連想させる(南半球は違うけど)クリスマスという季節は,外気が寒いせいか,心が暖まるようなセンチメンタルなクリスマスストーリーを聞いてほっこりとした気分になりたいと思う一方,なんかの作り話のような甘ったるくて幻想的な話なんて聞きたくないなという矛盾した心情になってしまう.

そんな,一見,無茶な要求に応えてくれるような短編小説があります.

Paul Auster著作のAuggie Wren's Christmas Story

作品が発表されたのは1990年の12月25日.New York Times.私は,大学の学部時代に翻訳夜話という村上春樹さんと柴田元幸さんの著作の中で,二人の翻訳を読んだことがあったのですが,記憶がうっすらとしか残っていなかったので,ちょっと趣味も兼ねて翻訳してみました.一応,大学の英語教材の一つとして使わせてもらったのですが.

昔ならいざ知らず,今は一応,北海道のちゃんとした国立大と私立大で教鞭を執っている立場なので,訳が下手くそだったら申し訳ないのだけれど,クリスマスシーズンだし,掲載してみようかと思います.

ちなみに,原文はこちらです.

Auggie Wren's Christmas Story-Paul Auster

それでは,雪の夜に酒の入ったグラスを揺らせてお楽しみください.






オーギー・レンのクリスマスストーリー

ポール・オースター

私はこの話をオーギー・レンから聞いた.オーギーはこの話の中で,あまりいい役柄は演じていない.少なくとも,彼自身にとっては願ってもない役とは言い難い.そういうわけで,彼は私に,彼の本当の名前は使わないように頼んだのである.それ以外は,この話の全体,なくなった財布や盲目の女,クリスマスディナーのことについては概ね,彼が私に語った通りである.

オーギーと私は,もう知り合って11年近くになる.彼はブルックリン繁華街のコートストリート沿いにある,一軒の葉巻屋のカウンターで働いている.何せ,私が吸いたいと思う小さなオランダ製の葉巻を置いてある店はここ一軒だけなので,足繁くここに通うことになる.長い間,私はオーギー・レンについてあまり気にとめてこなかった.彼は小さな風変わりな男で,フードの着いたブルーのスウェットシャツを着ており,葉巻と雑誌を売ってくれる,ちょっとお茶目な皮肉屋で,いつも天気やら,メッツやら,ワシントンにいる政治屋なんかについて何かおもしろいことを言う奴である.そんな程度のことだった.

だが,何年か前のある日,彼はたまたま店にある雑誌をざっと眺めており,偶然,私の本の一つの書評に目を止めたのである.彼には,それが私だと分かった.というのも,その書評には写真が添えられていたからである.その後で,我々の間の何かが変わった.オーギーにとって,私は単なる客の一人ということではなく,特別な人間になったのである.普通,人は本やら作家やらといったものには,気もとめないものだが,オーギーは自分をちょっとしたアーチストであると考えていたということが判明した.今となっては,彼は私の秘密を暴き出しており,私を自分の味方,親友,戦友だと思っているのである.実を言えば,これはちょっとありがた迷惑だった.その後,まぁ,避けようもなかったのだが,彼が自分の写真を見てくれないかと言ってくる瞬間がやってきた.彼の熱意と善意を考えると,その申し出を断る方法はちょっとなかったような気がする.

その後,私に何が見せられるかなんて,誰が知っていただろうか.少なくとも,オーギーが私に見せてくれた類のものは予想していなかった.店の奥の,小さな窓のない部屋で,彼は段ボール箱を開け,12個のみな同じ外見のフォトアルバムを取り出したのである.「これは,俺のライフワークなんだ.1日に5分とかからない」と彼は言った.ここ12年の間,毎朝,彼はきっかり7時にアトランティック・アベニューとクリントンストリートの交差点に立ち,全く同じ場所を一枚ずつカラー写真で撮っていたのである.そのプロジェクトは,今ではもう4000枚以上になっていて,11つのアルバムは異なる年度を示しており,全ての写真は11日から1231日まで列に沿って並べられており,写真の下に几帳面な字で日付が記録されてあった.

アルバムをめくり,オーギーの仕事をじっと眺めだしている間,何を考えればいいのか分からなかった.初めの印象は,自分が見てきた中でもとりわけ奇妙で,訳の分からない物だなというだけのことであった.プロジェクト全体は,気の遠くなるような繰り返しの猛襲で,同じ通りと同じ建物が何度も何度も現れ,容赦ない重複する写真の譫妄であった.オーギーに何を言えばいいのか思いつけなかったので,ただひたすらページをめくり,さもわかったようにうなづいていたのである.オーギー自身はなんだか落ち着いたような感じで,満面の笑みで私のことを見ていたのだが,何分かした後で,突然口を挟んだ.「速すぎるな.ゆっくり見ないと,何も分からんよ」.

もちろん,彼は正しかった.時間をかけなければ,決して何も見えないのである.私はもう一つのアルバムを取り出し,もっと丹念に進むように自分に言い聞かせた.細部に注意を払い,天気の変化に気づき,季節が過ぎる毎に変わりゆく光の角度を注意深く眺めたのである.するとじきに,交通の流れの微細な違いに気づけるようになり,異なる日々のリズムを予期することができるようになった.仕事の朝という周期的運動,それに比べての週末の静けさ,土曜と日曜の間のコントラストといったようなことである.それから,少しずつ分かるようになってきた.背景にある人々の顔,仕事に向かう歩行者たち.毎朝同じ人が同じ場所を通って,オーギーのカメラの中で,それぞれの人生の一瞬を生きている.

一度,彼らのことが分かるようになると,彼らの姿勢に注目した.ある朝から次の朝にかけての動き方を詳細に観察し,外見から彼らの胸の内を推し測ろうとした.まるで,私が彼らのストーリーを想像できるかのように,まるで,私が彼らの体の中に閉じ込められた目には見えないドラマが見通せるかのように.それから別のアルバムを取り出した.もう退屈ではなかったし,最初の頃のように戸惑ってはいなかった.私には分かった.オーギーは時間を,自然の時間,人間の時間,その両方を写真に撮っているのである.世界のほんの小さな片隅に根を下ろし,それをわがものにすべく自分の意志を注ぎ込み,自ら選び取った空間で,見張り台に立ち続けることによって.彼の仕事に夢中になっている私を見て,彼は上機嫌に微笑み続けていた.それから,まるで私の思考を読みとっているかのように,彼はシェイクスピアの一説を朗吟し始めた.「明日,また明日,また明日」息をしてつぶやき,「時間は小刻みな足取りで,一歩一歩を歩む」.そう,自分がやっていることの意味を,オーギーは完全に把握しているのだ.

それ以来,既に2000枚以上の写真が撮られた.その日から,オーギーと私は,彼の仕事について何度も語り合った.しかし,彼がどういういきさつでカメラを手に入れ,写真を撮り始めたのかということを知ったのは,つい先週のことである.それが,彼が私に語ってくれたストーリーのテーマであり,私は未だにその意味を分かろうともがいているのである.

その同じ週のこと,ニューヨークタイムズのある男が私に電話をかけ,クリスマスの朝に載せるショートストーリーを書かないかと尋ねてきた.最初は衝動的に,「無理」だと言おうとしたのだが,その男があまりに魅力的で忍耐強かったので,会話の終わりまでには,私はとりあえずやってみると彼に伝えた.しかし,電話を切った瞬間に,私は深いパニックに陥った.自分がいったいクリスマスについて何を知っているのだろう?私は,自問した.注文に合わせて,ショートストーリーを書くなんていう仕事について,私に何が分かるというのか?

私はその後数日を絶望の淵で過ごし,ディケンズ,O. ヘンリーやその他諸々のキリスト生誕の日を巡る著作の巨匠の亡霊達と戦った.そもそも私には,「クリスマスストーリー」という言い回し自体に不快な響きがあり,偽善っぽい戯言や甘ったるい話の恐ろしいほどの応酬が喚起される.どんなによく言ったところで,クリスマスストーリーなど所詮,願望充足の絵空事,大人のためのお伽噺に過ぎず,その手の類のものを自分が書こうなど,考えるだけでもうっとうしく思えてくる.しかし,一方で,誰がセンチメンタルでないクリスマスストーリーなど書こうと思うだろうか.そんなものは,完全なる自己撞着であり,不可能なことであり,紛うことなき難問なのである.足のない競走馬,翼のない雀を想像することの方がまだしも楽というものだ.

どうしようもなかった.木曜日に,私は長い散歩に出かけ,新鮮な空気に触れて頭をすっきりさせようとした.昼を過ぎたところで,手持ちの蓄えを補充しておこうと思って,例の葉巻屋で立ち止まると,いつも通りにオーギーがカウンター越しに立っていた.彼は,私に「元気か?」と聞いてきた.はからずも,私は気がつけば自分の思いの内を彼に打ち明けていた.「クリスマスストーリー?」私が話し終わると,彼は言った.「それだけのことか?もし,昼飯を奢ってくれるなら,そうだな.今まで聞いたこともないような最高のクリスマスストーリーを話してやる.しかも,一言一句,掛け値なしの実話ってやつを」

我々はジャックへと歩いて行った.そこは,狭苦しくて騒々しいカフェテリアで,パストラミサンドイッチが旨く,壁に古いドジャーズの写真を掲げてある.我々は奥の席でテーブルを見つけ,注文し,それからオーギーが話を始めた.

72年の夏のことだった」と彼は言った.「ある朝,一人のガキがやってきて,店から何かを盗み始めたんだ.年の頃は1920かといったところか.とにかくそれまでに,ここまでひどい万引きは見たことがなかったね.店の向こう端沿いのペーパーバックの棚の側に立っていて,レインコートのポケットに片っ端から本を詰め込んでいたんだ.ちょうどそのとき,カウンターの辺りが混雑していてな,それで俺も最初は気づかなかった.しかし,ガキが何をしようとしていたのかが分かると,俺は叫んだんだ.すると,ガキは脱兎のごとくその場を立ち去り,ようやくカウンターから出られたと思ったら,既にアトランティック・アベニューを這々の体で走っていた.半ブロック程追いかけたんだが,それで諦めた.ガキは道沿いに何かを落としていて,それにこれ以上走りたくなかったから,何だろうと思って,しゃがんでみた.

それはガキの財布だった.金は一銭もなかったが,3, 4枚のスナップと一緒に運転免許証が入っていた.警察を呼んで,逮捕してもらうこともできたんだと思う.何せ,こっちは名前と住所が免許証から分かっているんだから.だが,なんだか妙にこのガキがかわいそうに思えてな.どうせ,ちんけなくだらんゴロツキなんだろうし,一度この写真を見てしまうと,怒る気にもなれなかったんだな.ロバート・グッドウィン.それがガキの名前だった.免許の中の写真の一枚は,確かこのガキが自分の母親だか祖母だかに腕を回して立っているのがあったはずで,別のやつには,満面の笑みで野球のユニフォームを着て笑っている9歳か10歳頃のものもあった.なんか,気の毒でな.恐らく,今ではヤク中かなんかなんだろうし.ブルックリンの貧乏な家に生まれて,将来の見通しも明るくはない.それにゴミみたいなペーパーバックなんて誰も気にしないだろ?

というわけで,その財布はずっと持っていた.時々は,ちょっとこいつを返してやりたいなとも思ったんだが,ずるずると先延ばしにしてしまって,とにかく何もしなかったんだ.それでクリスマスがやってきて,俺はやることも特になかった.いつもは店のオーナーが,クリスマスは家に招待してくれるんだが,その年は家族で,フロリダにいる親戚に会いに行ってしまっててな.だから,クリスマスの朝は自分のアパートでじっとしていたんだが,なんだか自分が哀れに思えてきてしまった.その時,キッチンの棚の上にロバート・グッドウィンの財布が置いてあるのが見えた.そうだな,たまには何かいいことをしてもいいだろうと俺は考えて,コートを着て,直接この財布を返そうと出かけることにした.

住所はボーラム・ヒルと書いてあった.ほら,団地が並んでいる辺りだよ.その日は凍てつくように寒い日だってのに,目当ての建物を見つけるのに何度か迷子になってしまった.ああいう所って,なんか全部同じ感じに見えるだろ.どこか違う場所に行ってるんじゃないかって考えているのに,実際は同じ所をぐるぐると回り続けているとか.とにかく,まぁなんとか目当てのアパートにたどり着いて,ベルを鳴らしてみた.だが,何も起こらなかった.誰もいないのかと思ったんだが,まぁ,念のためって思ってもう一度鳴らしてみた.少し長めに待っていて,ちょうど諦めかけようかって時に,誰かがのそのそとドアの所にやってくる音が聞こえる.年のいった女の声で「どなたですか?」って聞くもんだから,「ロバート・グッドウィンを探しているんですが」って答えた.『お前かい,ロバート?』とその婆さんは言った.それで,15個近くの鍵を開け,ドアを開けた.

この婆さん,少なくとも80歳,いや,たぶん90歳くらいだったんじゃないか.それで,とにかくまず気付いたのが,目が見えないってことだった.『ロバート,きっと来てくれるって思ってたよ』と婆さんは言った.『クリスマスの日に,あんたがエセルお婆ちゃんを忘れるわけがないもの』それから,婆さんは両手を広げて,今にも俺に抱きつこうとした.

分かると思うが,考える時間なんてなかったんだ.とにかくぱっと何かを言わないといけない.それで,自分でも何が起こったのか分からない内に,その言葉が思わず口をついて出てきてしまった.『そうだよ,エセルおばあちゃん』と俺は言った.『クリスマスだから,会いに来たんだよ』なんでそんなことをしたんだとか聞かないでくれ.わけが分からなかったんだ.恐らく,婆さんをがっかりさせたくないとか,そういうことなんだろうが,とにかく分からない.とにかくそうなってしまったんだ.それで,この婆さんがそこ,つまりドアの前で突然俺に抱きついてきて,それで俺も抱き返したんだ.

別にはっきりと自分が婆さんの孫だって言ったわけじゃない.少なくとも言葉では言ってないし,まぁ,そういう含みを持たせたことは確かなんだが.でも,婆さんを騙そうとしたわけじゃない.それは,ちょうど俺たちが二人でやろうと決めたゲームみたいなもんだったんだ.前もってルールまで決めたわけでもないがね.つまりだな,その婆さんだって,俺が孫のロバートじゃないってことは知っていたんだよ.確かに,年老いてフラフラしてはいるが,でも赤の他人と血肉を分けた肉親を区別できないほどには,ボケちゃいなかった.だが,孫のフリをすることで,楽しい気分にさせられたんだな.とにかく他にいい方法があるわけでもないし,進んでこっちも話を合わせようってことにしたわけだ.

それで俺たちはアパートの中に入って,一緒にクリスマスを過ごすことになった.その場所は,こう言うのもなんだけど,本当にゴミ捨て場みたいだったよ.でも,盲目の女一人でちゃんと家事をやっとけなんて,どだい無理な相談だよな.その婆さんが,俺がどうしてるのかって聞くたびに,俺は嘘をでっち上げたよ.葉巻屋のいい仕事が見つかったんだ,だとか,今度結婚する予定だ,だとか,とにかく100くらいのかわいらしい嘘をついた.そうしたら,向こうもその一つ一つを信じるフリをしてな.『ロバート,そりゃよかった』って,頷いて,笑いながら言うんだな.『お前のことだもの,きっとうまくいくはずだってずっと思ってたよ』

しばらくして,俺はかなり腹が減ってきた.家の中にはあまり食いもんもないような感じだったから,近くの店に行ってきて,とりあえずいろいろ買ってきた.ローストチキン,野菜スープ,ポテトサラダを1バスケット,チョコレートケーキ,そんな感じのもんだ.エセルはベッドルームに2本ワインをしまってあったから,俺たちでなんとかまともなクリスマスディナーを揃えることはできたよ.それで,確か,二人ともワインでちょっと酔っぱらったんで,飯を食った後,リビングに行ったんだ.椅子の方がずっと心地よかったからな.そこで,俺は小便がしたくなったんで,ちょっと失礼して,廊下の方にあるトイレに行ったんだ.その場所で,また事態が変わった.エセルの孫のフリをするってのも随分とあほらしい冗談だと思うんだが,その次に俺がやったことってのは,もうどうしようもないくらいいかれてたと思うよ.ちょっとこれは自分でも許せないくらいなんだが.

トイレに行って,シャワーの隣の壁に,6つか7つのカメラが重ねてあるのを見たんだ.新品の35ミリカメラで,まだ箱に入ったままの最高品質のやつだった.本物のロバートがやらかしたことなんだろうなって思ったよ.最近,あのガキがせしめてきた獲物を置いておく保管場所の一つなんだろうなと.今までの人生で写真なんか撮ったこともなかったし,誓って盗みなんてしたことなかったんだが,こいつらを見た瞬間に,自分でも一つ欲しくなってしまってな.ただ,それだけなんだ.そんなこと考えるのもやめようとか思う間もなく,カメラの箱の1つを俺は脇の下で抱えて,それでリビングに戻った.

3分もリビングを離れていたはずはなかったんだが,その時にはもうエセル婆さんは椅子のところで眠ってしまっていたよ.たぶん,キアンティを飲み過ぎたんだろうな.俺はキッチンに行って皿を洗った.ガチャガチャ音を立てていた間も,エセル婆さんは赤ん坊のように寝息を立てて寝ていたな.起こすのも悪いと思ったから,俺はその場を立ち去ることにした.さようならって書いたメモも残していけなかったよ,何せ,婆さんが盲目なのは分かっていたからな.それで,とにかく俺は家を出た.ロバートの財布は机の上に置いて,またカメラを手にとって,それでアパートの外へ出た.これで話はおしまいだ」

「それ以降,婆さんに会いには行かなかったのか?」私は尋ねた.

「一度だけ」と彼は言った.「3ヶ月か4ヶ月かした後だ.カメラを盗んで悪かったと思っていたし,全然使ってもいなかった.なんとかかんとか,それを返しに行こうと決意したんだが,でもエセルはその場所にはもういなかったよ.何があったのかは知らないが,でも誰か別の人間がそのアパートに移ってきていたし,そいつも婆さんがどこに行ったかなんて分かるわけなかったしな」

「多分,死んだんだろうな」

「あぁ,多分,な」

「つまり,その婆さんは君と最後のクリスマスを過ごしたというわけだ」

「そうなのかもしれんな.そんな風に考えたこともなかったが」

「いいことしたんじゃないか,オーギー.君がやったことはよかったと思うよ」

「嘘をついたし,盗みもした.それなのに,なぜ君がいいことをしたなんて言えるのか分からないね」

「婆さん,幸せだったんじゃないか.そのカメラだって,どうせ盗まれたもんだったんだろ.君が取ってきたカメラだって,どうせ本物の所有者のものというわけでもなかったんだろうし」

「アートのためならなんだって,か,ポール?」

「そんなこと言ってはいないよ.でも,少なくとも君はカメラを有効に使っている」

「それで,今は君もクリスマスストーリーが手に入った,と」

「あぁ」と私は言った.「どうやら,そのようだな」

私はしばらくじっとして,オーギーがいたずらっぽく満面の笑みを浮かべたのを観察していた.確信は全然持てないのだが,彼の目の中はあまりにミステリアスで,密かな嬉しさで満たされていたので,突然,ここまでの話を全部でっちあげたんじゃないかという思いがふと頭をよぎった.私は,自分を騙そうとしたんじゃないかと問い詰めたかった.だが,まともな答えなんて返ってくるはずがない.私は,彼にまんまと騙されていて,そのことだけが意味のあることだったのかもしれない.でも少なくとも,信じる者が一人だけでもいるのなら,事実たり得ない話なんてないのである.

「オーギー,君は最高だよ」と私は言った.「ここまで力になってくれてありがとう」

「お安いご用」と彼はそう答えた.私を見る彼の目には,まだ狂気の光があった.「まぁ,何にせよ,秘密も共有できない友人なんて,どんな友人なんだってことなんだろうな」

「たぶん,私は一つ借りができたんだろうな」

「ないよ.君は単に俺が言った通りに書けばそれでいい.君は俺に何一つ借りなんてない」

「昼食を除いては,ね」

「そう.昼食以外には,な」

私はオーギーに微笑み返し,それからウェイターを呼んで,勘定を頼んだ.

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