2011/09/05

予備校の英語

H大さんの図書館で(実は現実逃避なのだが...),予備校の英語というのを見かけて,ついつい懐かしくなって読んでしまった.

筆者は伊藤和夫.「受験英語の神様」と呼ばれ,駿台予備校という全国型の予備校を成功させた功労者である.

私とこの人の出会いは高校時代.

既に廃刊になったが,研究社が「高校英語研究」という雑誌を発行していたことがあり,友人がそれを持っていたので「高二の英文解釈(これは,全編が編集され,英文解釈教室基礎編というタイトルで出版されている)」というコーナーで氏の記事を読んだのである.

友人がその雑誌を持っていた理由は,予備校(K塾だった)で進められた「パラグラフリーディング特集」というのに惹かれたからということであり,私もその記事は読ませてもらったのだが,イマイチ興味が持てなかった.

電車を待つ間,私はぱらぱらといろんな記事を流し読みし,氏の記事にだけは目が止まった.

正直,衝撃的だった.

当時,英語が苦手で特に興味もなかったのだが,氏の解説を読み通すことによって,初めて英語が理解できるという感覚が感じられた.

経歴説明の箇所を見ると,「英文解釈教室」,「ビジュアル英文解釈」などがベストセラーとあり,いてもたってもいられなくなった私は帰宅後,すぐさま近所の割と大きな本屋さんまで自転車を走らせ,ビジュアル英文解釈(上下巻)を購入した.

この本をむさぼるように読んでから,私の英語力が劇的に飛躍することになる.

というわけで,伊藤和夫という人から直接教わった経験はないが(現在,Youtubeで一部,講義は聴ける),この人の参考書(たくさん)には大変お世話になった.

氏の英語教育へのスタンスと取り組み方は十分すぎるくらいマスターさせてもらったので,これは大学以後,塾,予備校での仕事で大いに役立つこととなった.

年月が過ぎ,いつの間にか私が大学で教えるという立場に立っている.

氏が臨終の間際に編集したという「予備校の英語」は,予備校という,アウトローな立場ながら,高校と大学の橋渡しという立場から見える英語教育への批判的考察が地に足が着いた形でなされている.

いろいろと耳に痛い批判もある.

入試問題の形式に対する批判もある.これは,ちょっとずつ改善していきますと言うしかない.詳細は記述できないが(興味のある方は,うちの大学の試験問題を分析されたい),進歩はしているという言い方はできると思う.

解答例や採点基準が公開されないのは,職務怠慢ではないかという指摘もある.

これは仰る通り.はっきり言って,大学教育の側が胡座をかいているだけの話なので,フェアではないだろう.

ただ,大学の立場の人間から言える範囲のことだけを言わせてもらえれば,出題者の側にそこまで英語力 or 思考力がない,ないしは受験生の力が見えていない,英語教育の実態が分析できていない,という要員は多分にある.

中堅どころの私学など,どこも似たり寄ったりではないかと推測する.

まぁ,旧帝大や名門私立大学などがぼちぼち情報を公開するようになってきているので,それがある程度参考になるだろう.

特に,関西圏で入試問題を解析していた頃から好意的に見ているのだが,同志社大学なんかはいい.入試問題に変な癖がないし,しかも出題傾向や対策,正解率もかなり分かりやすい形で公表されてある.

時代は少しずつ変化しているのである.

「口語重視,使える英語」の旗頭の下に,英語教育,特に中学英語の中身がすっからかんになった感は否めないが(ホテルやファーストフード店で注文する,ちょっと挨拶を交わせる程度のことが国際交流であると思われているうちは,もっと深いレベルで異文化を理解する機会を失うことになるということを世間の人たちは認識して欲しい),大学は大学でそれなりに世間と文科省の役人と戦っているという面もある.

決定権は残念ながら大学だけにはないのである(京都大学のように,我が道を進めるような所も例外的にはあるが).

私も微力ながら,大学教育に貢献していきたいものであると意を新たにしたしだいである.

余談ながら,伊藤和夫師(注:駿台の慣例に従った)の臨終の言葉は,看護師さん(氏は一人身であった)に向かって言った「大変お世話になり,本当にありがとう」という一言であったらしい.

昭和一桁世代の老紳士の最後にふさわしいと私は思う.

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